作曲初心者が知っておくべき音楽理論とその学習順

音楽理論に関してこのあたりの知識を、こんな順番で、ここまで知っておくと作曲をスムーズにこなせる、という内容のまとめ(各理論項目の詳細解説つき)
内山敦支 2025.06.06
誰でも

こんにちは。作曲を始めたばかりの頃は感覚全開でやっていたのに音楽理論の便利さを知っていつのまにか理論派寄りになってしまった内山です。

今回は、

「ポップス・ロック系作曲の初心者が、音楽理論のどのような知識を、どのような順番で、作曲活動の初期段階でどのあたりまで理解しておくのがおすすめなのか」

という点について細かくまとめてみます。

それぞれの理論的項目についても詳しく書いていきますので、長文になりますが、ぜひお付き合い下さい。

***

まず最初に、作曲初心者が学んでおくべき理論的項目と、その学習順を以下に示します。

【1】スケールとキー
【2】ダイアトニックコード
【3】コードの役割(スリーコード)
【4】コードの役割(代理コード)
【5】セブンスコード
【6】コードの機能的な流れ

これらは、今までの私自身の音楽経験と、これまでに作曲に取り組むいろいろな人を見てきたデータから割り出した、ポピュラー系作曲のために最も無駄がなく、かつ理解を深めやすい理論の学習項目とその学習順だといえます。

特にこの手の理論は学ぶべき順番が大切で、というのも、上位の概念を理解するためにはそれ以前の前提知識をしっかり身につけておく必要があるからです。

また初期段階ではあえて学ぶことを避け、後回しにすべき知識も存在します。

そのあたりを踏まえてこれ以降で順を追いながらそれぞれを丁寧に解説していきますので、全体のつながりを意識しつつ、ぜひ理解を深めてみて下さい。

また、それぞれの理論的概念の解説はこれまでのニュースレターでも断片的に行ってきましたが、それらを一度きちんと整理する意味でも今回このテーマを取り上げてみました。

内容についてある程度理解されている場合にも、復習のために改めて読み進めていただけると嬉しいです。

【1】スケールとキー

まず、「音楽理論の知識を全く持たない人がなにから学び始めるべきか?」と問われれば、私は迷わず「キー」の概念だと答えます。厳密にいえば、その「キー」を形成するスケールの概念もそこに含まれます。

これが、音楽理論を学び始めるときの出発点になります。

このニュースレターでもたびたび取り上げているように、そもそも音の種類は12種類しかなく、それらは1オクターブを12等分するような状態で並んでいます(以下図)。

この12音は等しく同じ価値を持つため、むやみに扱うとそこからはぐちゃぐちゃな雰囲気が生まれてしまいます。つまり、音楽としてまとまりがあるものに感じられなくなってしまうため、12等分された音の中からしかるべきルールに沿って音を選び、その音の組織による「まとまった雰囲気」を活用して音楽は組み立てられます。

その音の選び方を「スケール」と呼び、主に音楽では「メジャースケール」と「マイナースケール」という二通りの音の選び方が活用されます。

メジャースケールはいわゆる「ドレミファソラシ」の構造に相当するもので、また、マイナースケールは「ラシドレミファソ」の構造に相当します。

上記図に記載しているように、これらは、厳密にいえば「ド(C)」を先頭に置いたメジャースケールとしての「Cメジャースケール」、「ラ(A)」を先頭に置いたマイナースケールとしての「Aマイナースケール」に相当するものです。

上記の鍵盤の図から音の選び方だけを抜き出すと以下のようになりますが、つまるところそれぞれは12等分で並んでいる音の中から、以下のようなルールに沿って選ばれた7音のグループだと定義付けることができます。

この「メジャースケール」と「マイナースケール」はあくまでも音の選び方=枠組みでしかないため、スケールの先頭(基音、主音)に全12種類あるそれぞれの音を置くことができます。

そして、先頭の音に紐づくその他の音は、スケールの枠組みを優先させてそこに音を入れていくような形で割り出されます。

以下にその例として、「レ」の音を先頭に置いたメジャースケール(Dメジャースケール)の図を示します。

上記図のように、そもそもメジャースケールの音の並び(全12音からの選ばれ方)が不均等になっているため、この例でいえば「レ」を先頭に置いた場合、メジャースケールの枠組みが優先されて「ファ#」や「ド#」が選ばれることになります。

この例を含め、先頭の音が「ド」以外になる場合(ドレミファソラシ=Cメジャースケール以外の場合)、必ずなんらかの音に「#」「♭」がつくことになります。

以下に、全12音を先頭に置いた、12種類のメジャースケールを一覧で示します。

これらは、すべてが「ドレミファソラシ」的なまとまったサウンドを生み出す音のグループだといえます。例えば前述の「レ」を先頭に置いた、

「レ・ミ・ファ#・ソ・ラ・シ・ド#」
(※Dメジャースケール)

の場合、そこからは

「レ」から始まる「ドレミファソラシ」

のような、まとまった雰囲気が生み出されます。

またこれはマイナースケールにおいても同じで、音の種類として存在する全12音をスケールの先頭に置くことができ、前述した「ラシドレミファソ(Aマイナースケール)」以外の場合、なんらかの音に「#」「♭」がつきます。

以下がマイナースケールの一覧です。

これらも、すべてが「ラシドレミファソ」的な、メジャースケールとはまた違う少し暗い雰囲気を持つ、まとまりのあるサウンドを生み出す音の選び方だといえます。

これらを前提として、すでに述べたように、音楽を作ったり演奏したりする上ではこの「メジャー=12種類」「マイナー=12種類」の「音のグループ」のどれかを主に活用することになります。

※もちろん、スケールに含まれない残り5音を含む、1オクターブを12等分した全12音のすべてを使って音楽を表現することはできますが、まとまった雰囲気を生み出すために特定のスケールの音がその曲における音使いの主軸のような存在になる、ということです。

その上で、ここで取り上げている「キー」とは、つまるところ「どのスケールを使うか」を定義するものだといえます。

まず大きな二つの分類として、メジャースケールによって組み立てられる音楽は「メジャーキーの音楽」、マイナースケールによって組み立てられる音楽は「マイナーキーの音楽」と呼ばれます。

そして、例えば「Cメジャースケール」の音の並び(この場合「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ」)を主に使う場合、その音楽は「Cメジャーキー」の音楽と呼ばれます。

他にも、例えば「Dメジャースケール」の音(この場合「レ・ミ・ファ#・ソ・ラ・シ・ド#」)を主に使う場合、その音楽は「Dメジャーキー」の音楽と呼ばれます。

キーの音は音楽のまとまりを生み出すために曲のあらゆるところに活用されます。それはメロディであり、コードであり、またもっと細かいところでいえば、ベースライン、ギターソロ、ハモリなど、曲の中の音使いすべてにキーの音が活用されます。

音楽を作ったり演奏したりする上でキーを定めること、またキー(およびそのキーを形成するスケール)に対する理解は欠かすことができません。そもそもキーが定まっていなければ音使いを定められず、メロディやコードの展開を組み立てようにも、なにをすればいいかがわからなくなってしまいます。

裏を返すと、キーをきちんと定めることができれば、そのキーのスケールの音を活用して音楽を組み立てたり、また演奏もできるようになります。

これは今回テーマとしている音楽理論の学習にも通じることで、キーの概念についてきちんと理解できているか否かによって、それ以降に位置する理論的概念の理解度が大きく変わってきます。

例えば、標準的なコードはキーの音を前提として扱うことになり、よりハイレベルなコード進行も、「キーから外れる音をいかにして盛り込むか」という観点によって扱うことになります。

他にも、スケールについては前述したメジャースケールとマイナースケールが特に主要な二つのスケールとして位置づけられていて、それ以外のスケールについては「メジャースケールおよびマイナースケールと比較してどのような違いがあるか」という観点で語られることが多いです。

そのような意味でも、まず音楽理論について理解を深める上では、こちらで取り上げているメジャースケールとマイナースケール、およびキーの概念について完璧に理解することを目指してみて下さい。

また、スケールの内容をより正確に把握するために「音名」や「音程」についても理解できているとより望ましいですが、主にポピュラー系の作曲においては、それらはある程度省略できます。

今回は解説を割愛しますが、もし余裕があれば、それらについてもあわせて概要だけでも知っておくことをおすすめします。

【2】ダイアトニックコード

キーおよびそれを形成するスケールについての理解がある程度深まった上で、次に私が学ぶことをおすすめする知識は「ダイアトニックコード」についてです。

ダイアトニックコードはキーの概念をコードに発展させたようなもので、「一般的な音楽がキーの音を主体として成り立っている」という事実を前提として、通常ポップスやロックではハーモニー=コード進行に、キーの音によって割り出されたコードのグループが活用されます。その「キーの音によって割り出されたコードのグループ」に相当するものがダイアトニックコードです。

以下にその例として、Cメジャーキーにおいて活用される「Cメジャーダイアトニックコード」の成り立ちを構成音で示します。

この表で示している通り、ダイアトニックコードの元になるのはキーの(スケールの)音で、この例でいえばCメジャースケール「ドレミファソラシ」の7音それぞれを土台としながら、例えば「ド」からスケール内に沿って

「ド」→「ミ」→「ソ」

のように、1音飛ばしで三つの音が重ねられます。

そして、それによっておのずと7個のコード(和音)が生み出されることになります。

ここで書かれている「C」や「Dm」などのコードネームは、「音の重なり具合(=構成音の音程)」をアルファベット(と数字)によって表したシステムのようなものだといえます。

根本的に、コード表記には英語のアルファベットが扱われていますが、これ以前でも少し触れていたように日本で馴染み深い「ドレミファソラシ」は、英語表記では「CDEFGAB」になります。

その上で、例えば「C」というコードネームの場合、

  • 「ド(C)」を根音(ルート音)とする

  • その根音に、「ミ」「ソ」が重なる

という音の重なり方を意味します。

ここでの「ミ」は、厳密にいえばルート音「ド」(完全1度)に対する「長3度」という音程を持つ音で、「ソ」は「完全5度」の音程にあたる音だといえます(以下図)。

もう一つの例として、例えば「Dm」というコードネームの場合、

  • 「レ(D)」を根音(ルート音)とする

  • その根音に、「ファ」「ラ」が重なる

という音の重なり方を意味しており、ここでの「ファ」は、厳密にいえばルート音「レ」に対する「短3度」という音程を持つ音で、「ラ」は「完全5度」の音程にあたる音だといえます(以下図)。

ダイアトニックコードに含まれる各コードが「C」や「Dm」のようにメジャーになったりマイナーになったり(あるいは7番目のコードに「-5」といった表記がついたり)するのは、それぞれのコードを構成する音の音程によるものです。

これ以前でも述べていたように、そもそもキーのもとになるスケールが不均等な音の選ばれ方をしているため、「スケールに沿って1音飛ばしで音重ねる」という一定のルールでコードを作っても、どんな音をそのコードのルート音(音を重ねていくときの出発点)にするかによって重なる音それぞれの音程が微妙に変わってきます。

その一つの例が、前述した「C」と「Dm」における「長3度」「短3度」の違いだといえます。以下に、それぞれを比較して図として示します。

ここで示しているように、それぞれ「ド~ミ」「レ~ファ」は共に音程でいう「3度」の関係にある音同士でありながら、

  • 「ド~ミ」=長い3度

  • 「レ~ファ」=短い3度

という違いがあります。

※これ以前でも表記していたように、「長い3度」を「長3度(ちょうさんど)」、「短い3度」を「短3度(たんさんど)」と呼びます。

これによって、音を重ねた状態で聴いたときの響きには違いが生まれ、より具体的には「長3度」の関係にある二つの音からは明るい雰囲気、「短3度」からは暗い雰囲気が生まれます。

そしてこれらの二音を構成音に含む場合、コードにおいては「C」「Dm」というようにコードネームとして明確に表記分けしている、ということです。

ただ、理論を学び始める初期段階では音程について細かく理解する必要はなく、そういった理由によってコードそれぞれの構造が変わる、という点のみを把握できていればそれで問題ありません。

そしてこれにより、例えばCメジャーキーの音楽でメロディやコード進行を組み立てる際に、

  • メロディに「Cメジャースケール」の音(ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ)

  • コード進行に「Cメジャーダイアトニックコード」のコード(C,Dm,Em,F,G,Am,Bm-5)

を活用すれば、キーとしてのまとまりを保ちながら、メロディとコードを調和させることができます。

これらの音およびコードを扱うことによって、必然的にキーの音を活用してメロディとコード進行を組み立てることになるため、その音楽からはまとまった雰囲気が生み出されます。

また、すでに述べた通りキーの種類は全部で24種類(メジャー=12種類、マイナー=12種類)あるため、それぞれのキーに応じて全部で24種類のダイアトニックコードが存在することになります。

以下に、それらを一覧として示します。

この表を参照することで、「Cメジャーキー」以外にも、例えばこれ以前に例として示していた「Dメジャーキー」であれば、

  • メロディに「Dメジャースケール」の音(レ・ミ・ファ#・ソ・ラ・シ・ド#)

  • コード進行に「Dメジャーダイアトニックコード」のコード(D,Em,F#m,G,A,Bm,C#m-5)

を活用すればいい、とわかります。

余談として、ダイアトニックコードに含まれている各コードの大文字アルファベットはコードのルート音を表しており、そのルート音こそがキーの7音(そのキーの元になるスケールの音)であるため、特定のキーのダイアトニックコード表からコードの大文字アルファベットを読むだけでキーの音を把握することができます(以下図)。

つまりこれは「ダイアトニックコードの表さえあれば、そのキーの音使いとコード使いの両方がすぐにわかる」ということを意味しています。そのような点からも、ダイアトニックコードの表をぜひ便利に活用してみてほしいです。

■ 各キーのダイアトニックコードは同じ型になる

すでに述べた通りダイアトニックコードは、

キーの音である7音それぞれを土台としながら、そこにスケール内から1音飛ばしで音を重ねるようにして7個のコード(和音)を生み出す

というルールによって割り出されたコードのグループであるため、例えば「Cメジャー」と「Dメジャー」のようにキーが変わっても、そのもとになる「メジャースケール」の音の配置(構造)に違いはなく、それゆえに、そこから生み出される各コードの構成音の音程も同じになります。

以下にその例として、「Cメジャーダイアトニックコード」と「Dメジャーダイアトニックコード」のそれぞれを改めて比較して示します。

上記表をみると分かる通り、それぞれのダイアトニックコードで、例えば1番目(I)のコードはそれぞれ「C」「D」というように共にアルファベット1文字のメジャーコードになっていたり、例えば2番目のコード(IIm)はそれぞれ「Dm」「Em」というように共にマイナーコードになっていたり、各コードはキーが変わってもダイアトニックコード内の場所に応じて同じ種類になってきます。

これをもとに、「メジャーダイアトニックコード」「マイナーダイアトニックコード」それぞれに含まれる7個のコードを、以下のようなローマ数字を使った型として表すことができます。

この「度数による型」の表記は、キーに依存しないダイアトニックコードの場所やコード展開の構造を把握する上で役立つので、ぜひこの表記に慣れることを目指してみてほしいです。

そして思い出してほしいのが今回のテーマである「音楽理論の学習順」で、私がこれ以前に「キーとスケール」について知るべき、という学習順を示していた理由がこのあたりにあります。

つまりここで述べている、

  • 「Cメジャーダイアトニックコード」と「Dメジャーダイアトニックコード」はそれぞれ「メジャースケール」をもとにしたコードのグループ

  • 共に「メジャースケール」を元にしているため、同じルールで音を積み重ねれば、そこから出来上がるコードの構造も必然的に同じになる

というような概念は、「メジャースケール」と「キー」の概念がわかっていてこそすんなりと理解できます。

あわせて、ダイアトニックコードに7個のコードがある理由も、また今回は踏み込んだ解説をしていないですがそれぞれのコードがなぜそのコードネームになるかということも、その土台となるスケールを理解していれば順を追って自分なりに解釈できるようになります。

そういう意味でも、もしダイアトニックコードの成り立ちについて分からなくなってしまったら、それ以前の知識として位置付けられている「キーとスケール」に戻り、改めて復習してみてほしいです。

【3】コードの役割(スリーコード)

ダイアトニックコードについて理解が深まったら、その次にダイアトニックコード内に含まれている各コードの役割を理解するところに踏み込んでいけます。

ここまでに述べていた「スケール」「キー」「ダイアトニックコード」のそれぞれの知識が作曲に活用する道具の知識だとすれば、「コードの役割」に関して理解を深めることは、その道具の使い方を知る行為だといえます。

以下に、これまでに例として挙げていた「Cメジャーダイアトニックコード」の一覧を改めて示します。

この表にある7個のコードのうち、1番目のコード(I)に相当する「C」は特に安定していて、この例でいう「Cメジャーキー」を象徴するような響きを持っています。

このコードは「トニック(主和音)」と呼ばれ、ダイアトニックコードを活用したコード進行の中で最も重要なコードとして位置付けられています。

かたや、5番目のコード(V)に相当する「G」は不安定な響きを持っており、トニックとは真逆の性質を持つコードとして「ドミナント(属和音)」と呼ばれます。

ドミナントコードは不安定な響きを持っているがゆえに、その後にトニック(=安定した響き、I)を置くことでその不安定な響きが安定によって解決されることになり、そのようなコードの展開はより納得感のあるものに感じられます。

この「ドミナント→トニック(V→I、上記例でいう「G→C」)」の進行は、コード進行による響きのストーリーを組み立てる上でなくてはならないものだとされています(※後述)

これらに加えて、上記例の「Cメジャーダイアトニックコード」内の4番目のコード(IV)「F」はドミナントコードほどではないものの少し不安定な響きを持っており、「サブドミナント(下属和音)」という名称でトニックとはまた違ったサウンドを生み出すコードに位置付けられています(以下、まとめの図)。

ここで挙げている、ダイアトニックコード内の「1番目(I)」「5番目(V)」「4番目(IV)」の三つは、まとめて「スリーコード(主要三和音)」などと呼ばれ、コード進行を組み立てる上で代表的な存在として扱われています。

これらコードの響きの違いは、いわゆる文章でいう「起承転結」のようなストーリー展開に活用され、たとえばCメジャーキーにおいて

「C→F…(I→IV)」

というようなコードの展開を作れば、

「『安定したコードの響き(C、トニック)』が、『少し不安定(F、サブドミナント)』になる」

というサウンドの変化を演出できたり、他にも

「…F→G→C(IV→V→I)」

というような展開を作れば、

「『少し不安定なコードの響き(F、サブドミナント)』が『より不安定(G、ドミナント)』になり、それを解消するように『安定(C、トニック)』へと落ち着く」

という変化を演出できます。

ここで例として挙げているようにスリーコードだけでもコード進行のストーリーを組み立てることができて、それゆえにこれらはバンドなどの即興によるセッションや、童謡などのより簡素な曲作りに多用されています。

そして、ここで挙げているのはあくまでもCメジャーキーの例で、それぞれのキーのダイアトニックコードにおける「1番目(I)」「5番目(V)」「4番目(IV)」を明らかにすることで、それぞれのキーにおけるスリーコードを簡単に把握することができます。

この点についても、直接的に「スリーコード」について理解しようとすると難しさを感じることになりますが、これ以前にきちんとダイアトニックコードの成り立ちについて学習できていれば、その位置付けを無理なく把握することができるはずです。

また、ここで取り上げている「コードの役割」についてはメジャーキーのみを前提としていますが、マイナーキーについてはこの「コードの役割」以降の概念で徐々にイレギュラーなパターンが増えていくため、慣れていない頃に並行して理解しようとすると混乱することになります。

そのため、これ以降はメジャーキーのみを対象としながら、そちらの知識がある程度きちんと備わった上で、その後にマイナーキーについて学習範囲を広げていくやり方をおすすめしています。

※この「マイナーキーの学習は後回しにする」という点も、音楽理論を正しい順序で理解していく、という今回のテーマに含まれる考え方だといえます。

【4】コードの役割(代理コード)

スリーコードと、それらが受け持つ「トニック(安定)」「ドミナント(不安定)」「サブドミナント(少し不安定)」という三種の響きと役割について理解ができたら、次にダイアトニックコード内にある残りの四つのコードについても、その役割を理解するステップに進むことができます。

以下に、改めてその例としてCメジャーダイアトニックコードの一覧を、それぞれの機能的役割を併記した上で示します。

  • 「I」「IIIm」「VIm」・・・トニック

  • 「V」「VIIm-5」・・・ドミナント

  • 「IV」「IIm」・・・サブドミナント

上記にて整理しているように、スリーコード以外のコードも同じく「トニック」「ドミナント」「サブドミナント」の役割で分類され、その分類はスリーコードである「I」「V」「IV」の構成音との類似性や、ダイアトニックコード内においてそれぞれのコードがどのように響くかという前提で行われています。

この点については中身を細かく紐解くこともできますが、まずはスリーコードと同じように、各コードがこのように分類されている、という点のみをそのまま理解すればそれで問題ありません。

そしてこれによって、ダイアトニックコードを活用しながら機能的なコードの展開を作る上で、さらに選択肢を広げることができます。

例えば、前述したCメジャーダイアトニックコードにおけるコード進行の

「C→F(I→IV)」

は、

「トニック→サブドミナント」

という機能的役割の移り変わりを生み出していましたが、スリーコード以外のコードとして「IIm(CメジャーキーでいうDm)」がサブドミナントとして分類されているため、それを活用することで、同じ「トニック→サブドミナント」の流れでも

「C→Dm(I→IIm)」

という展開を検討できるようになります。

同じく、スリーコード以外のトニックである「VIm(CメジャーキーでいうAm)」を活用すれば、「トニック→サブドミナント」の流れとして

「Am→Dm(VIm→IIm)」

という展開も検討できます。

このように、ダイアトニックコード内の「IIm」「IIIm」「VIm」「VIIm-5」はスリーコードを代理することができるため、「代理コード」などと呼ばれます。

※この「代理コード」という名称は、ダイアトニックコード内の「IIm」「IIIm」「VIm」「VIIm-5」に限らず、基本的には「なんらかのコードを代理できる他コード」の全般に対して使われます。

ここまでにきちんと順序に沿って「キー(スケール)」→「ダイアトニックコード」→「スリーコード(三種の機能)」が理解できていれば、スリーコードを代理できる役割としての「IIm」「IIIm」「VIm」「VIIm-5」の位置付けについても、無理なく把握できるはずです。

【5】セブンスコード

ここで、学習としては少し戻る形となりますが、これまでにご紹介していた「ダイアトニックコード」に加えて、そのサウンドをより豊かにした、「バージョンアップ版のダイアトニックコード」について学ぶことができます。

それが「セブンスコード版」のダイアトニックコードです。

以下に例として、これ以前にご紹介したCメジャーダイアトニックコードの成り立ちを改めて示します。

上記では、すでに解説した通りCメジャースケールにある7つの音をルート音としながら、そこにスケール内の音を1音飛ばしで重ねるようにして7個のコードが割り出されています。

これらは、例えばコード「C」であれば「ド」「ミ」「ソ」のように三つの音から成り立つコードであることから「三和音」などと呼ばれ、ダイアトニックコードを理解する上では基本となります。

それを踏まえつつ、前述の「セブンスコード版」のダイアトニックコードは、それぞれのコードの構成音を三つから四つに増やすような形で割り出すダイアトニックコードだといえます。

以下にその例として、Cメジャーダイアトニックコードのセブンス版の成り立ちを示します。

こちらでも「スケールにある7音それぞれを起点として、そこからスケール内に沿って1音飛ばしで音を重ねる」というルールは同じで、三和音版ではそれにより、

ド・ミ・ソ=「C(I)」

というような形でコードが割り出されていたのに対し、このセブンス版では

ド・ミ・ソ・シ=「CM7(IM7)」

という形で、四つの構成音によってまた違ったコードが割り出されることになります。

ここでの「M7」の表記は「メジャーセブン」と呼ばれ、このコードは「シーメジャーセブン」という名称になります。

※この「メジャーセブン」には、こちらで扱われている「M7」以外にも「maj7」や「△7」など、いくつかの表記があります。ここでは「M7」の表記を使って解説を進めます。

他にも、例えば三和音版では

レ・ファ・ラ=「Dm(IIm)」

という状態だったものが、セブンス版では

レ・ファ・ラ・ド=「Dm7(IIm7)」

になり、このコードは「ディーマイナーセブン」と呼ばれます。

これら「セブンス版のダイアトニックコード」は、前述した通り三和音版ダイアトニックコードをバージョンアップさせたようなもので、三和音版と同じくキーの音のみを重ねて作られたコードのグループであるため、三和音版のダイアトニックコードを使うのと同じ感覚で、キーの範囲内においてコードの展開を作るためにそのまま活用できます。

セブンス版のダイアトニックコードでは三和音の響きがより多彩になり、またコードのサウンドとしては三和音に比べて若干都会的で、よりリッチな雰囲気が生まれることになります。

特に洗練されたサウンドを狙う場合や、R&Bやジャズのような要素を曲に盛り込む場合には、これらのコードを扱うことが目的とするサウンドを実現するうえでのポイントになります。

■ セブンスの表記が「M7」「7」に分かれる理由

セブンス版のダイアトニックコードにおいて、コードによって「M7」が追加されたり「7」が追加されたりするのは、(これ以前に解説していた「長3度」「短3度」の理論と同じく)コードのもとになるスケールの構造によるものです。

ダイアトニックコードを組み立てる上での「スケール内の音を1音飛ばしで重ねる」というルールは同じで、それに沿ってセブンス版のダイアトニックコードでは四つまで音が重ねられますが、やはり元になるスケールの構造が不均等になっていることで、そこから生み出される構成音の音程には違いが生まれます。

具体的には、ルート音から(付加される)7度の音までの音程が、同じ7度の音でありながら長くなるケース(長7度)と短くなるケース(短7度)があり、長7度が付加される場合にコード表記は「〇M7(〇〇メジャーセブン)」になり、短7度が付加される場合には「〇7(〇〇セブン)」になります(以下図)。

このあたりの考え方はこれ以前で解説していた「長3度」「短3度」の考え方と全く同じだと理解して下さい。

そして、この点についても音楽理論を学び始める初期の段階においては音程について細かく解釈する必要はなく、「元になるスケールの構造によって付け加えられるセブンスの種類に違いが生まれる」という点のみを理解できていればそれで問題ありません。

これにより、全24種類のダイアトニックコードにおいて、三和音版のダイアトニックコードをバージョンアップするような形で、セブンス版のダイアトニックコードを同じように扱えるようになります。

以下に、その一覧を示します。

【6】コードの機能的な流れ

ここまでを通してスケールやコードについて理解を深めたら、最後にコード展開の基本的なルールを把握することで、初期段階の理論学習に一旦区切りをつけることができます。

この「コード展開の基本的なルール」は、クラシック音楽では「カデンツ」などと呼ばれ、これ以前にご紹介していた「コードが持つ三種の機能」を前提として、

  • 「トニック」「ドミナント」「サブドミナント」のそれぞれの機能をどうつなげるか

  • それらの機能的な流れをどう「トニック」に落ち着かせるか

という観点で語られることが多いです。

ただ、実際のところポピュラー音楽において「カデンツ」はより柔軟にアレンジされるため、あくまでもコード進行を形作る基本的な機能の移り変わりとしてそれらを理解するのがおすすめです。

※ポピュラー音楽ではこの「カデンツ」のことを「ケーデンス」と呼ぶことが多く、クラシック音楽の理論ほど厳格なものではなく「区切りや落ち着きを感じさせるコード進行」のような感覚的なものとしてこの概念が扱われる傾向にあります。

以下に「カデンツ」に相当するコードの機能的流れ(3パターン)を示します。

  • 【1】トニック(T)→ドミナント(D)→トニック(T)

  • 【2】トニック(T)→サブドミナント(SD)→ドミナント(D)→トニック(T)

  • 【3】トニック(T)→サブドミナント(SD)→トニック(T)

これらの機能的流れを、例としてCメジャーダイアトニックコードにおけるスリーコードにそのまま当てはめると以下のようになります。

これらは、ある意味でスリーコードのみを活用した最も自然なコードの流れだといえます。

そして、これ以前でも少し触れたように、このうち「ドミナント→トニック」に相当する「G→C(V→I)」はドミナント(V)の不安定な響きがトニック(I)の安定した響きに解決するため、特に重要なコード進行だとされています。

通常「V」はセブンス版ダイアトニックコードの「V7」を扱うことでより不安定な響きが強まるため、トニックへの解決をきちんと演出する上では

「V7→I」(上記例でいう「G7→C」)

という形が活用されます。このような「V7→I」というコードの展開を「ドミナントモーション」と呼び、コード進行を締めくくる部分や、トニック(I)への進行をより強める部分でこの形が頻繁に活用されます。

■ カデンツのアレンジ

さらに、ダイアトニックコード内にはスリーコード以外に代理コードが存在しているため、これ以前でも少しやったように、それらを活用することでカデンツをさらに多彩なコード進行へと発展させることができます。

以下に、同じくCメジャーダイアトニックコードを前提として、その例をいくつか示します。

ここで行っているように、スリーコードだけでは限定的だったカデンツ的なコードの流れも、代理コードを組み合わせたり、カデンツをより柔軟に解釈することで多彩なコードの展開を生み出すことができるようになります。

もちろん、これらはセブンス版ダイアトニックコードによって響きをより多彩にすることもできます。

上記の図にあるいくつかのコード進行を、セブンス版ダイアトニックコードによってアレンジすると以下のようになります。

  • 「CM7→G7→Am7」

  • 「Dm7→G7→Em7→Am7」

このあたりまで理解できていると、一般的な定番のコード進行も、その中身をダイアトニックコードの度数で紐解き、さらにはそれぞれのコードに割り当てられている三種の機能(=響きの役割)を考慮しつつ、それをカデンツの観点によって解釈することで、そのコード進行を構造的に把握することができるようになります。

そして、そこで身につけた分析力をもとに、定番のコード進行をつなぎ合わせたり、その一部を自分なりに応用していけるようになります。

***

音楽理論学習の初期に学んでおくべき項目とその順番、および内容の解説は以上です。丁寧に書いていたらものすごいボリュームになってしまいましたが、以下に改めて、項目の順番を示します。

【1】スケールとキー
【2】ダイアトニックコード
【3】コードの役割(スリーコード)
【4】コードの役割(代理コード)
【5】セブンスコード
【6】コードの機能的な流れ

繰り返しになりますが、これらは階層になっており、上位の知識をきちんと理解するために、その前提となる知識を備えておくことが欠かせません。

ぜひこの順番に沿って理解を深め、また上位の知識について内容がいまいち把握できない場合には、それ以前に位置する理論的項目に一度戻り、順を追ってゆっくりと内容をかみ砕いてみて下さい。

初級相当の音楽理論はそこまで込み入ったものではなく、習得の順番を意識して、特に基礎的な概念をきちんと理解することによって無理なくそれらを身につけることができるはずです。

あわせて、今回は説明があまりに長くなってしまうことから割愛した内容もいくつかあるため、それらも今後のニュースレターで少しずつお届けしていきたいと思っています。

解説についてのご感想やご質問など、気軽にコメントしてもらえたら嬉しいです。

長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。

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